鉄鎖の太平洋3
星条旗、煉獄に燃ゆ!
予告編


米国海軍ついに動く! 
眠れる獅子の胎動に日独両国は戦慄した。

軽空母36隻から成る大艦隊が
パール・ハーバーをを再炎上させ、
その牙をさらに西へとむけていく。

 ドイツではヴィルヘルムV世が
独断で帝位を次ぎ、
異母妹カミーユ・ヘッセン追討令を下した。

ここに日独は奇妙な共同戦線を形成し、
太平洋には暗雲がたちこめる。

 そして来れり決戦の日! 
帝都東京に殺到するはアメリカ海兵隊の群れ。
東京湾を征くは日独露米の戦艦部隊。

全てを操る鉄仮面提督
鬼庭篤紀の眼が妖しく光る。

 博多湾で始まり、
真珠湾で頂点を迎えた戦争が、
いま東京湾でクライマックスを迎える――。


目次
プロローグ  吸殻の風景,43
第1章     極東の烽火
第2章     真珠湾再炎上
第3章     沈黙の共同戦線
第4章     アポカリプス・フリート
第5章     空母躍り食い
エピローグ  閉じられた鉄鎖

「硫黄島の陸軍基地より通信です。“午後の定時索敵完了。敵影を見ず”……以上であります」
 艦長渋谷清見大佐は極めて事務的に告げた。殺伐とした艦橋の雰囲気が増長されていく。
「今回は珍しく先手が取れたか。ならば良し。手筈どおり硫黄島の南西にて遊弋しつつ、警戒態勢を強化するように」
 まるで用意された原稿を棒読みするかのように言い下したのは、口元から顎先までを鋼鉄の仮面で覆い隠した人物であった。航空艦隊司令長官・鬼庭篤紀少将である。
 常に必要最低限の言葉しか発しない少将に対し、艦長は皮肉を混濁させた問いを投げかけた。
「今回は陸軍側からの要請に基づいての出撃です。これでやっと小笠原の借りを返せます。報恩の機会に恵まれたことを感謝せねばなりますまい」
 それは否定できぬ事実であった。
(第3章より)

「グライフ戦闘爆撃隊、逃亡戦艦〈ヘッセン〉上空に到達しました。現在、高度五七〇〇メートル。攻撃開始一五秒前!」
 女性士官の甲高い声が“戦闘オペラハウス”にけたたましく響く。青島要塞総司令エーリッヒ・レーダー元帥は少しだけ耳を押さえ、推移する状況を見つめていた。
 巨大な作戦表示盤には、飛翔中である味方巨人機のシルエットが投影されていた。ハインケルHe177“グライフ”である。
 この怪鳥は、ドイツ製大型高速爆撃機という系譜のアンカーに位置するマシンだ。最終局面に投入するに相応しい機体と言えるだろう。
(第4章より) 

 
 二隻に引導を渡したのは、ドイツ期待の星たる新造戦艦〈ヘッセン〉であった。
 満載排水量は九七〇〇〇トン弱。全長三〇五メートル。主兵装として四七・六センチ連装砲を四基八門有している。世界最強を謳われた〈大和〉型とも互角以上の勝負ができる実力派だ。
 外面はともかく中身の伴わぬフネであった。
 完成して二週間にも満たないため、乗員の練度は最低レベルなのだ。その巨砲が発射した砲弾は、虚しく東京湾をかき乱すだけであった。
 だが一四斉射目にして、初めて命中弾が得られた。その破壊力は流石に特級だ。SKC/43型砲塔から弾き出された四七・六センチ砲弾は、一撃で〈オクラホマ〉の足を止め、〈ネヴァダ〉を沈黙させたのだった。
(第5章より) 

書下ろし長編仮想戦史
 鉄鎖の太平洋3
星条旗、煉獄に燃ゆ!

2003年11月17日ごろ発売予定。