鉄鎖の太平洋2
旭日旗、咆吼!
予告編


欧州状勢は複雑怪奇。
ドイツ第2帝国新皇帝となった
カミーユ・ヘッセンであったが、
その前途は多難であった。

即位を認めぬ母国政府に対し、
実力を披露する必要に駆られた皇帝は
日本海軍撃滅を命じた。

自らも空母〈グラフ・ツェッペリン〉に乗り込むや、
日本本土へと殺到する。
今ここに、李氏朝鮮領となっていた対馬を巡って、
日独艦隊による大空海戦が惹起した――。

 同じ国家に所属し、
勝利という同じ目標に向かっていながら、
何故か憎み合う組織、陸軍と海軍。
彼らが調和を見出す場所は戦場しかないのだろうか。

『鉄鎖の太平洋』シリーズは、
この命題に関する著者なりの解答でもある。


目次
プロローグ 鎮魂歌’42
第一章   日独小田原評定
第二章   固有領土奪還
第三章   バトル・オブ・ツシマ
第四章   小笠原沖航空戦
第五章   空母奮迅
エピローグ 堕ちた偶像


   異形の潜水艦である墺/洪二重帝国海軍〈マリア・テレジア〉艦内に命令が響く。それを発したのはゲオルク・フォン・トラップ男爵だ。
 機械油と小便の臭みが混濁した司令塔内で、彼は潜望鏡を覗きつつ、続けて言った。
「艦長、航海日誌に記録したまえ。一月四日午前〇時一五分、本艦一一時方向にて発射反応らしき光を視認。敵大型列車砲と推定。
 緯度経度から計算して、その砲台拠点は敵本土キュウシュウ北部ヒラド島の海岸線と思われる。本艦はこれより日本本土攻撃の尖兵となり、敵列車砲を撃破するのだ!」
(第3章より)


  だが鬼庭司令は答えない。
 鉄仮面の隙間から死人のような蒼白い肌を覗かせたまま、飛行甲板を凝視している。口元を完全に覆い隠しているため、その表情を読みとることはできない。艦長は続けた。
「秘匿性を考えれば、我が空母から誘導電波を出すわけにもまいりません。夜間海上航法は、パイロットたちには重荷でしょう。
 航海あがりの私には、飛行機の事はよく判りません。ですが訓練結果から判断する限り、搭乗員たちの技量は、司令が目指す運用方針を満足させるだけの域に達していないと思われます。
 空技廠が出している報告書も読みました。主力の九七艦攻は低速操縦性が劣悪であり、夜間着艦には不適と評価されているではありませんか。
 無理をさせれば、たとえ攻撃に成功したとしても、飛行隊の戦力は激減してしまいます。明日からの戦闘に寄与することが難しくなりましょう」
「艦長が被害を悲観視するのも判る。だがこれは戦争だ。軍人が死ぬのは当然ではないか。帰投後、空母を見つけられぬ機体は硫黄島まで足を延ばすように伝えよ。それに……」
「それに、何でしょうや?」
「ドイツの対空砲火は凄い。どのみち攻撃隊は半分も帰投できまい」
 鬼めが!
(第4章より) 

 
「空母〈飛鷹〉艦長澄川道男大佐より入電。
“火災鎮火の見込みなし。ただいま総員退去を命じたり。御厚意、感謝に堪えず。天皇陛下万歳”。……以上であります」
 鉄仮面の提督は、まったくの無表情のまま、視線を燃え盛る同型艦に向けていた。
 もともと〈飛鷹〉は商船として開発されていた〈出雲丸〉を改造した空母である。防御力など期待する方が間違いだ。浮力を失うのに時間は要しまい。
 渋谷艦長は沈痛な表情で鬼庭を問い質した。
「……司令。もしやこうなる事を御承知の上で、〈飛鷹〉を艦隊中央に配置なされたのでしょうか」
 一切の逡巡なしに鬼庭は答える。
「仕方がないではないか。旗艦には最後まで生き残り、指揮を執る義務がある。できることは何でもせねばならぬ。早々の死は責任放棄と同義なのだ……」
(第5章より) 

書下ろし長編仮想戦史
 鉄鎖の太平洋
旭日旗、咆吼!

2003年8月19日ごろ発売予定。