沈黙の守護神
新世界大戦 エピソード1

ACT2:北海の防人

予告編
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西暦一九四〇年秋。戦乱の渦が全地球を覆おうとするその時、
世界は日英対米独という奇怪な勢力構造によって統べられていた。

英国本土航空決戦に敗退したドイツ総統兼州知事ヘスは、停滞する
状況を打破すべく、新鋭戦艦〈ビスマルク〉を米本土へと回航させる。

迎え撃つは〈フッド〉〈ロドネー〉そして〈金剛〉〈陸奥〉の戦艦部隊――。
そして一年後、日英連合艦隊は、総力をあげてハワイ真珠湾を奇襲!

アイスランドを無血占領したアメリカ大西洋艦隊も一挙に南下を開始!
今まさに、第二次ジェットランド沖海戦の火蓋は切られたのである。

だが、実業家ヒトラーは不気味に頬を緩めるのみ。彼が胸中に秘めた
世界を掌中に治める秘策とは、いったい何か?


 挨拶もそこそこに、ハミルトン艦長は帽子をひっつかむや、英海軍式の敬礼を成し、〈陸奥〉を後にしようとした。小澤はそんな彼を呼び止め、小澤はきっぱりと言った。
「……我らも出陣しますぞ。ここ英国南部にいるフネで戦闘参入可能な艦は限られておりましょうからな」
 ハミルトンは改めて丁寧な敬礼をしてから答えた。
「戦艦〈キング・ジョージX世〉および〈プリンス・オブ・ウェールズ〉が未完成な今、我らは閣下が有する戦力に頼らねばなりません。アドミラル・トーゴーの御子孫達の活躍には大いに期待しております。あの軟弱なハリファックス首相を刮目させるような戦果をお願い致します。
 武士は嘘をつかぬもの。そう聞いております。自分は、オザワ閣下が、誇り高き“サムライ”であることを願って止みません!」



 海峡を運河の一種であると見なしているドイツ州陸軍は、当時、本格的な揚陸装備を装備してはいなかった。彼らは大胆にも、河舟や艀をタグボートに引っ張らせることにより、この三四キロの海門を超えようとしていたのであるが、さすがに現場を見た将官達は、波濤に足下を掬われる危険性を認識したらしく、この総統命令には比較的素直に従ったのである。
 だが、それは小舟ならではの話。こうした悪環境を無視し、天候に左右されることなく、その持ち得た力を存分に発揮できる戦闘艦をドイツは有していたのであった。彼女は、時計の針がそろそろ午後を指し始めた時、その凶暴極まりない姿を顕現させたのである。
 戦艦〈ビスマルク〉……。


「……西か。つまりはノルウェーの航空基地からの刺客。要するにドイツ空軍……。ゲーリングの使いっ走り達だな」
 小澤は考えをまとめるようにそう呟いた。現れた索敵機は、明らかに米海軍のそれであったことを思い出した参謀達の間に動揺が走る。それは米独間の連携がうまくいっていることを暗示していたわけだ。
 危急の際に、上が動揺していたのでは話にならぬ。部下が浮き足立つだけだ。それを良く認識していた小澤は、五月晴れのような空を恨めしく見上げつつも、全ての禍根を切断するかのように大声で命じたのだった。
「全艦に連絡! 対空戦闘用意!」

大河架空戦記、鶴首の続刊ここに登場! 大西洋に寧日なし!


書下ろし大河架空戦記

 沈黙の守護神
新世界大戦 エピソード1
ACT2:北海の防人

2002年6月10日(月)発売予定。



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